PrEPの基礎知識

PrEPって?

PrEP(曝露前予防内服)とは、性交渉する前からHIVの薬を内服し、HIV感染のリスクを減らすというHIVの予防方法です。
英語の頭文字をとって、PrEP(プレップ)と呼んでいます。

混同しやすいPrEPとPEPの違い

PrEPという予防が考えられる前からPEP(ペップ)という予防方法があります。
名前が似ているため混同しやすいので注意が必要です。
性交渉をする前から薬を飲むのがPrEP、性交渉をした後に薬を飲むのがPEPです。

PrEP

リスクのある行為(例: 性交渉)があった後、HIVの治療薬を内服する

PEP

リスクのある行為に備え、前もってHIVの予防薬を内服する

PEPはあくまで緊急的な予防方法で、実際のHIV感染症の治療に準じて複数の薬剤を用いて行います。
PEPの詳細を知りたい方は国立国際医療研究センター エイズ治療研究開発センター(ACC)のHPをご参照ください。

PrEPの効果

決められたスケジュールを守り内服することができれば、性行為によるHIV感染は99%、薬物静注によるHIV感染は74%の予防効果が期待できると考えられています。(参照:https://www.cdc.gov/hiv/basics/prep.html

どんな人がPrEPをするべき?

PrEPはHIVに感染するリスクが高い方に推奨されます。

適応条件

  • HIV非感染者
  • HIV感染のリスクがある
  • 成人
  • 腎臓の機能に異常ががない

推奨される人

  • パートナーがHIVに感染しているが適切な治療を受けていない
  • 最近に性感染症にかかった
  • セックスする相手が多い
  • コンドームを使わないことがある
  • 風俗で働いている

PrEPで使用するお薬

現在海外でPrEPとして使用を認められている薬はツルバダとデシコビというお薬です。
通常、HIV感染症を治療する際には他の抗HIV薬と組み合わせて治療を行います。
一方、PrEPではツルバダまたはデシコビのみで予防を行います。

ツルバダ (Truvada): Tenofovir/Emtricitabine

ツルバダ

ツルバダはHIVの治療薬の一つです。

内服方法
1日1回1錠を毎日内服する(Daily PrEP)またはリスク行為の前後で内服する(on demand PrEP)
副作用
短期:嘔気、腹痛、下痢、頭痛、皮疹
長期:腎障害、骨塩減少など

PrEPにツルバダを用いる事は、日本国内で認められた使用法とは異なります。

ツルバダについての詳細は、国立国際医療研究センター エイズ治療研究開発センター(ACC)のHPをご参照ください。

デシコビ (Descovy): Tenofovir Alafenamide Fumarate/Emtricitabine

デシコビ

デシコビはHIVの治療薬の一つです。

内服方法
1日1回1錠を毎日内服する(Daily PrEP)
副作用
嘔気、下痢
対象者
男性およびトランスジェンダー女性(性行為によるHIV感染を予防)

PrEPにデシコビを用いる事は、日本国内で認められた使用法とは異なります。

デシコビについての詳細は、国立国際医療研究センター エイズ治療研究開発センター(ACC)のHPをご参照ください。

開始前・開始後に医師の診察が必要

PrEP開始にあたっては、HIVの検査、B型肝炎の検査、腎機能の評価などが必要です。

一方、個人輸入等で既にPrEPを開始している方に対して、SH外来では副作用の有無を評価するための検査を有料で行っています。

外来で評価する事

  • 既にHIVに感染していないか
  • HIVに新たに感染していないか
  • PrEPを行うにあたり腎臓に異常はないか
  • PrEPによる副作用はないか (身体所見、肝・腎機能の検査)
  • B型肝炎に感染していないか (血液検査)
  • その他の性感染症 (梅毒、淋病、クラミジアetc)に感染していないか

etc

Safer Sexついて

PrEPを開始する事で、コンドームの使用率が減少し、他の性感染症が増えたという報告があります。
一方で、定期的に医療機関を受診する事により、性感染症を早期に診断し治療をすることができる可能性もあります。

いずれにせよ、他の性感染症にはPrEPの効果がないため、Safer Sexの重要性は変わりません。

PrEPを行ってもコンドームを使用する必要があります。

PrEPの利点/欠点のまとめ

海外のデータをまとめると、PrEPの予防効果・安全性は高く、欠点よりも利点が大きいものと考えられます(表1)。
PrEPを行うにあたっては、怠薬なく予防を続けること、PrEP以外の性感染症の予防(Safer Sex)を行うことが重要です。

(表1) MSMにおけるPrEPの効果
利点 欠点
HIV感染症を予防できる コンドーム使用率の減少=性感染症の増加
他の性感染症の早期発見 薬の副作用
  HIVの薬剤耐性

PrEPの内服方法

PrEPの内服方法は2つあります。どちらの内服方法が適切か医師に相談してみましょう。

1日1回1錠を毎日内服する。(Daily PrEP)

男性同性間の性行為、男女間の性行為、トランスジェンダーの方、薬物静注によるHIV感染リスクのある方、すべての方に有効性が確認されている方法です。1日1回決まった時間にツルバダを1錠、リスク行為のあるなしに関わらず、毎日内服します。
男性およびトランスジェンダー女性の場合には、性行為によるHIV感染を予防する目的でデシコビを使用することができます。

Daily PrEP(リスク行為あり)

リスクのある行為に備え、1日1回決まった時間に1錠内服する

Daily PrEP(リスク行為なし)

リスクのある行為がなくても、1日1回決まった時間に1錠内服する

リスク行為の前後で内服する。(on demand PrEP)

男性およびホルモン療法を行っていないトランスジェンダー女性のみ内服可能な方法です。性行為の頻度が1週間に1回以下の方は、PrEPのオプションとして考慮されます。慢性B型肝炎の方はオンデマンドでの内服は出来ません。

性行為の2時間~24時間前に2錠、最初の内服から24時間後に1錠、更に最初の内服から48時間後に1錠を内服し(2-1-1)、終了する方法です。on demand PrEPに使用する薬剤はツルバダです。デシコビでの有効性は確認されていません。

on demand PrEP(2-1-1)

性行為の2時間~24時間前に2錠、最初の内服から24時間ごとに1錠内服を2回続け終了

on demand PrEP(延長)

内服中に次の性行為があった場合には、最終性交から更に2回、1錠ずつの内服を続け終了

PrEP開始前および開始後に必要な検査

PrEP開始前に最低限必要な検査

PrEP開始前に最低限必要な検査はHIV、B型肝炎、腎機能検査の3つです。

HIVの検査
第4世代の抗原・抗体検査を用いて陰性を確認します。
B型肝炎の検査
慢性B型肝炎の場合には、on demand PrEP(リスク行為の前後のみ内服)という方法を選択することはできません。Daily PrEP(毎日内服する)という方法になります。
腎機能の検査
ツルバダを内服する場合には、eGFRが60以上であることが必要です。
デシコビの場合には、クレアチニンクリアランスが30ml/min以上あることが必要です。

PrEPの開始

PrEP開始前の検査結果に問題がなかったら、間をあけずに、直ちに内服を開始します。
検査終了からPrEPを開始するまでの間は、性行為を行わないようにしましょう。

PrEP開始後1か月の時点で必要な検査

PrEP開始後1か月の時点で必要な検査はHIVの検査です。
今後PrEPを継続しても問題ないか、医師の診察とHIVの検査を受けましょう。

PrEP開始後に必要な検査

最低でも3か月に1回、HIVの検査を受けることが必要です。腎機能の検査は6か月に1回~1年に1回受けましょう。(腎機能の程度や年齢により推奨される検査の頻度は異なります。)
その他、梅毒や淋菌、クラミジアなど他の性感染症の検査についても定期的に受けましょう。A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンの接種も推奨されています。

PrEPのQ&A

PrEP中にコンドームを使用する必要があるのでしょうか。
PrEPはあくまでHIVの予防方法です。
梅毒や淋病、クラミジアなど他の性感染症を予防することはできません。
PrEP中もコンドームを使用した安全な性行動を心がけましょう。
PrEPを開始後どのくらいでHIVに対する予防効果が出てくるのでしょうか。(Daily PrEPの場合)
肛門性交を行う方が、毎日服用するという方法で予防した場合、薬が直腸組織に到達しHIVに対して予防効果を発揮するのに、7日程度を要します。また、血液や腟組織で十分な予防効果を発揮するのに20日程度かかると報告されています。
Daily PrEPとon demand PrEPについて教えて下さい。
PrEPには「1日1回1錠の内服を毎日続ける」という予防方法(daily PrEP)と「性行為の前後の数日間だけ内服する」予防方法(on demand PrEP)があります。
現在も世界で研究は進行中であり、現時点ではどちらの内服方法も同程度の予防効果があると考えられています。
ただし、on demand PrEPは男性およびホルモン療法を行っていないトランスジェンダー女性のみに推奨されている内服方法です。また、性行為の回数が週に1回以下の方、腎機能が低下傾向にある方に考慮される方法です。慢性B型肝炎の方はon demand PrEPを選択することはできません。
インターネットで薬を購入してPrEPを始めてもいいですか。
日本ではツルバダやデシコビをHIVの予防薬として内服することは認められていません。
海外のジェネリック薬を販売するインターネットサイトで薬を購入し、PrEPを行っている人はいますが、誤った使用方法でHIV感染した方もいます。PrEP開始前に医療者に相談しましょう。
お薬はどのように飲んだらよいのでしょうか。
食事と関係なく内服できます。コップ1杯程度の水で飲みましょう。
お薬の保管はどのようにしたらよいのでしょうか。
お薬は乾燥剤入りのボトルに入っています。ボトルは室温で保管してください。
冷蔵庫や高温になる車内などに置かないよう注意してください。
旅行などでお薬をボトルから取り出して、ピルケースなどに入れて持ち歩くことは構いませんが、1週間分位にとどめましょう。
薬を飲み忘れてしまいました。どうしたらよいのでしょうか。
飲み忘れていることに気づいたら、すぐに飲みましょう。
朝飲むはずのお薬を夜になってから飲み忘れていることに気づいたら、すぐにお薬を飲んでください。
翌朝はいつも通りの時間にお薬を飲んでください。
お薬を飲んだかどうかがわからなくなってしまいました。どうしたらよいでしょうか。
お薬を飲んだかどうか分からなくなってしまったら、とりあえず、お薬を飲んでください。
たまに、1日に2回お薬を飲んでしまうことがあっても問題ありません。
このような状況が頻回にある場合は医師にご相談下さい。
ツルバダにはどんな副作用がありますか。

ツルバダの内服開始後、腹部膨満感や吐き気、下痢などの症状が出現することがありますが、その程度は軽いものです。症状は数週間以内に消失するでしょう。
これらの消化器症状は、食後にお薬を飲むとか、もしくは寝る前にお薬を飲むなどの工夫によって軽減することがあります。

頻度は少ないのですが、まれに腎臓の機能が低下することがあります。そのため、定期的に腎機能をチェックします。
腎機能の低下が認められた場合には、PrEPを一時中断し、腎機能の回復を待つことがあります。

ツルバダの内服開始後に骨密度の低下が起こる可能性があります。その変化はPrEP開始後数か月間に起こり、以降骨密度の低下は見られません。
また、骨折の頻度が増えることもありません。PrEPを中止すると骨密度は速やかに回復します。

持病があって薬を飲んでいます。飲み合わせが問題になることはありますか。
治療が必要な合併症(持病)をお持ちの方、薬を飲んでいる方は、PrEP開始前にお知らせ下さい。相互作用が問題となる薬かどうかを確認します。
別の医療機関で処方されたお薬がある場合も教えて下さい。
PrEP中にホルモン治療を受けることはできますか。
PrEP中にホルモン剤を飲むことは問題ありませんが、飲んでいるお薬は全て担当医に知らせて下さい。
PrEP中にお酒を飲んでもいいのでしょうか。
PrEP中にお酒を飲んでも構いません。
PrEPを始めたらずっと飲み続けなくてはいけないのでしょうか。
パートナーとの関係やあなたの置かれている状況によってHIV感染リスクは変化します。
HIVに感染するリスクがなくなったり、他の予防方法を使い、Safer sexができるのであれば、PrEPは必要ありません。
PrEPをやめたいと思ったらどのようにしたらよいでしょうか。

PrEPをやめる時には事前にご相談ください。
安全に中止するためには、最後のリスク行為から7日間お薬を内服した後にやめる必要があります。ただし、ツルバダを内服している男性およびホルモン療法を受けていないトランスジェンダー女性は、最後のリスク行為から2日間お薬を内服した後にやめることができます。

また、PrEPで使用しているお薬は、慢性B型肝炎の治療薬でもあるテノホビルというお薬が含まれた合剤です。
慢性B型肝炎の方が、PrEPを中断すると、B型肝炎が急激に悪化する可能性があります。
PrEPの内服をやめる場合には、事前に医師にご相談下さい。

現在自分で薬を購入し、PrEPを始めていますが、SH外来で検査を受けることは出来ますか。
PrEPはより健康でいるための方法ですので、体を壊すようなことがあってはなりません。医師の見守りの中で飲み始め、しっかりとしたチェックを受けることが必要です。
すでにご自身でPrEPを始めている方に関しては、健康被害が出ないよう、SH外来で必要な検査を実施します(自費診療)。
薬剤耐性について教えて下さい。

HIVに感染している人が不十分な治療を継続することによって、その治療薬に対する抵抗性をもったウイルスが体内に出現し、治療効果が見込めない状態を薬剤耐性の獲得と言います。

HIVに感染していない人がPrEPを始めることによって、薬剤耐性を獲得することはありません。
ただし、PrEP中に感染していることに気付かずに、PrEPを続けた場合には、耐性ウイルスが出現する可能性があります。

その場合には、感染者としての治療を開始する際に、治療の選択肢が狭まる可能性があります。
PrEPを開始前だけでなく、開始した後も定期的にHIVに感染していない事を確認しながら、PrEPを継続することが重要です。

PrEPを開始した後に、HIVに感染してしまった人はどのような人ですか。

PrEP開始後にHIVに感染した人は、主に2つのパターンが報告されています。

1つは、PrEP開始時にすでにHIVに感染していたにもかかわらず、ウインドウピリオドであったために、感染していることに気付かずにPrEPを開始し、その後HIV感染が判明したという状況。
もう一つは、PrEP開始後にPrEP薬の内服がいい加減になったり、飲むのをやめてしまった方の中に、HIV感染が起こっています。

PrEPを始める前に、しっかりとHIVに感染していない事を確認すること、PrEP開始後は内服スケジュールを守って飲むことが重要です。